商都と共に生きる小樽商科大学
2022年12月28日
商大通りの坂道を登って行くと緑三、四丁目にかけて明治四十四年(一九一一)に開校した小樽商科大学の施設がある。
当時、北海道のなかで小樽が随一の繁栄を誇っていたとはいえ、北海道そのものが辺境の地としての認識を免れなかったであろうし、さらに小樽という一地方の荒涼とした無人境のような山のなかに国立の高等商業学校が誘致されたというそのいきさつに興味深いものがある。
そのころ、小樽の人口は約九万、まだ市制がしかれておらず小樽区と呼ばれていた。後背地に石狩の原野と空知の炭田を控え、自然の豊かさに加えて、港の施設もしだいにととのいつつあり、北辺の貿易港として大きく発展しつつあった。小樽区会は将来、小樽に外人が多数来往することを予想して、明治三十二年(一八九九)政府に対して高等商業学校設置を要望していたのである。日清、日露の二大戦争をへて、わが国の産業は目覚ましい発展をとげ、産業教育の振興が叫ばれていた。三十九年に文部省が高商の新設を内定したのに伴い、小樽は誘致運動に積極的に乗りだした。しかし有力な対抗馬として函館があり、小樽区会は敷地一万坪(三.三㌶)と建築費五万円を寄付することに決め、地元選出代議士を通じて中央に働きかけた結果、誘致運動が実り四十年のごがつに国立では五番目の高等商業学校として北辺の地小樽に設置が本決まりとなった。ところが設置条件として地元で校舎の敷地を確保することと、建築費三十七万円のうち二十万円を地元で負担することが条件づけられていた。敷地の方は地元の有力者数名から計八か所の寄付の申し出があったが、最終的に木村円吉、金子元三郎、河原直孝、青木乙松、白鳥永作の五氏と北海道商業銀行の土地若干を加えた一万二千坪(約四㌶)の土地が確保された。問題は建築費の寄付である。当時の金で二十万円といえば現在の金に換算して数百億円にも相当する。何しろ当時の小樽区の年間予算が三十万円程度であったというから区として二十万円を全額負担することはまず不可能に近い金額であった。結局、寄付金二十万円のうち五万円は北海道庁がねん出してくれることになり、残りは区民の寄付並びに区債で消化しようとした。
国の財政の貧しさを地方自治体や地方民の負担にしわよせしようという政府の考えは今も昔も変わらない。
明治四十一年の五月小樽高等商業学校の地ならし工事が始まった。小樽区は業者を集めて入札させたが希望者がなく、結局、区の直営工事になった。男女の労務者百数十人が「猫車」という手押し車数十台を使って整地を行い、五か月後に地ならし工事は完了した。校舎の設計は未定であったらしいが、文部省建築家札幌出張所長からの通達では大体は長崎高商の建物の平面図までつけられていたという。着工以来一年余をへて明治四十三年二月に、はるか港を見下ろす高台の地に木造二階建ての校舎ができあがった。
明治四十四年の一月に任命された初代渡辺竜聖校長は、その年の二月に校舎の下見をかねて小樽にやって来た。その当時の模様を「外観のみ完成された校舎が山腹に唯一つ立っているが道は意外にも長く(地獄坂)、二月と言うに流汗淋漓(りゅうかんりんり)として拭(ぬぐ)ひもあえぬ。暫くして校舎に辿(たど)りつけば休息すべき椅子一つ無く、全く山間の一軒家よりもひどい。観れば校舎は不完全であり、床は持ちあがって、扉は開かず、黒板は勿論、肝心の机がないのである。と言って誰に愚痴を言う術もない」と開校後しばらくたってから述懐されていたそうだ。
校舎は不完全なものであったが、その年の二月に生徒募集を行い、三月に第一回の入学試験を行った。志願者百五十人の中から七十二人に入学を許可した。入学者の出身地も年齢も階層も様々であった。道内の出身者は全体の四分の一で比較的少なく、他は四国、九州を含め全国各地からあつまったようである。年齢もマチマチで最年少は十七歳、最年長は二十四歳、同一学年で七つも歳が違うのも珍しくなかった。入学前の経歴も面白い。新聞記者、税関官吏、専売局書記、女学校の音楽教師、僧職、商館番頭、仲買人など、とにかく多士済々であった。が、三年後の卒業時には五十人に自然淘汰されてしまった。
このように第一回の入学生はまことに雑多な集まりであったが、それなりに混然とした一つのまとまりをしめし、教官を含めた家族的なふん囲気があり、他の学園には見られない緑丘の校風をつくり出し、北方の名門校としての礎石を築きあげた。その校風は今日でも良き伝統として引き継がれている。開校以来この六十年間に約一万一千人の学生を送り出し、卒業生は経済界をはじめ各界で活躍している。
~小樽 坂と歴史の港町 朝日新聞小樽通信局編 より
地獄坂を
勉強したい!と思わせてくれる雰囲気の図書館でした
『馬に乗って大学に通っていた教員もいたそうです。』
~2015.11.23
そば会席 小笠原
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