節分の豆 (後)

2015年02月03日

 また鰊漁期中、真夜中に突然の時化に出合うことなどふつうであるが、なかには急激な気圧の変化で、今まで平穏であった海上が暗夜急に突風と共に波が大きくうねり、揚網は瞬時を争うことがある。

 船頭は急きょ、揚網を命じ屋形をたたみ漁網、漁具類をロープで縛り、波で流されないようにし、枠船、起こし船に漁夫全員を半数に分乗させ、陸に向かって漕ぎ出すのだが、昼間でも時化の際澗口(まぐち)に入るのはなかなか危険を伴うものだ。

 まして夜の海は沖からは波浪のため陸岸が見えない。いくら馴れた場所でも潮流のため船が思うように波に乗らない。

 大波のため海水が船べりを超えて船の中に入ってくる。

 下手に岩礁に乗り上げたり岩にぶつけたりしたら、船もろ共漁夫の人命に関してくることも考えられる。

 船頭は艫櫂(ともがい)を脇下に抱え、舵をとり精神を統一しながら必死に澗口に近づいてくるが、どうも自信が持てなくなることがある。

 その時、肌身につけていた節分の豆を袋から片手で取り出し、自分の信心している神々に心の中で祈りながら口の中に入れ、噛みくだく。

 そうしていると、不思議にも心気が納まり、日ごろの自信が甦り、今の今まで不安と心配で自信を持てなかった目前の難関を超えて無事、陸地に到着できホッと安堵の胸をなでおろすということがある。

 一般の人達に知られない鰊の豊漁、不漁の占い、鰊の乗網、時化の難関突破などと節分の豆の功徳は他にもたくさんある。

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 『漁法や加工法、漁具では改良が次々と行われたその一方で、見定めきれないもの、大きな力に対しては占いや迷信にすがっていたという事でしょう。

 魚の回遊を進んで追い求めて獲るのではなくて、沿岸に回遊してきて自分の網に乗ってくるのをじっと待ち構えていなくてはならない建網では、偶然によって大漁不漁が決まることが多い。それだけに縁起の良しあしを気にしたのでしょう。』