小樽の女 ③ 知
2021年04月12日
題字 寿原秀子さん
カット 高橋好子さん(道展会員)
強い個人主張の願い
冬の海に似たひそかな情熱
小樽の女は詩歌でこんなふうに描かれている…。‶深い黒髪〟‶うるんだような魅惑する目〟‶リンゴのような童女の清潔さ〟‶ぼんやりと夢想しているような表情〟…これらの切れ切れな詩句から受ける感じは知性美というよりはあくまでも感覚的な美しさである。雪国の情緒をわれわれが先入観としてもっているためなのかもしれない。このことはそのまま彼女らの気質や人情についてもいいうる。
精神のはたらきを知、情、意に分けて考えるならば彼女らは‶知性的〟であるよりむしろ‶感情的〟であり、‶理性的〟であるよりは‶情熱的〟というはんちゅうに入れることができるのではないだろうか。またよくいわれる彼女らの‶シンの強さ〟は困苦と戦いながら今日の小樽をきずきあげた先人の開拓精神の遺産であろう。だがこれらは南国の女性たちに見られるような開放的な奔放さとはちがう。伏し目がちに歩く雪国の女の表情を‶みずからの心の窓にトビラをとざしているかのよう〟と表現した人があったが、このなにかをこらえてでもいるかのような小樽の女たちの姿からは、北国の冬の海を思わせるひそやかな情熱のウネリが感じられてくるのである。
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性格や気質はその住む土地の風土や伝統などの影響が大きいとされているが、小樽のそれは彼女たちの心をどう形づくっていったろうか。三方山で囲まれた小樽は風向きも一定し、比較的温暖であるといわれているがこうしたしのぎやすい気候は彼女たちに自然との対立でなく自然に対して従順であることをすすめたのではなかろうか。こうした自然との同化は自然の息吹をそのまま彼女たちのものとし、冬に堪え春にあこがれる心に豊かな感受性をうえつけたにちがいない。また一方では開拓精神が封建的なものとのキズナをいちはやくたち切った。
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だが彼女たちの多くはこの恵まれた資質を開花させぬうちに老いてしまった。消費都市として生れた小樽の社会的、歴史的背景は彼女たちに才気ではなく単なる人的資源として‶生産的〟であることをいやおうなしに強いたのである。戦前あたりまでは女学校といえば女性にとっては最高学府であり、そこで学べるものは選ばれた少数者だった。とくに農漁村ではこの傾向が強く女学校へ進学できるのは五十人中三人ぐらいであったという。そのほかのものは漁場で男どもといっしょに働いたり、、女工になったり、はては売女や女給になったりした。裸一貫で渡って来た移住者の生活はあるいはこのようなものだったのである。こうしてみてくると小樽の女性の知的水準が高いとはいいがたくなるが、戦後はこの傾向が急速に変わりつつある。小樽の中学校女子卒業生の進学率は都市部で七五…八〇㌫、郡部では七〇㌫程度とみられ、全国平均の五五…六〇㌫の進学率をかなり上回っている。進学テストなどの成績でも道内都市間では上位にあるという。就学年数の延長により小樽の女の知的水準は昔と比較にならないほど向上しているといえるだろう。
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小樽の女は‶人なつっこい〟‶こだわりが少ない〟とよくいわれる。これらは前に述べたスケールの大きな自然の雄大さから必然的に生まれたといえるが、一方で伝統の浅さにもかかわりをもっている。小樽人は他国からの移住者であるが、一旗組が多かったところから二世までの人々には‶いつかは北海道から離れよう〟という意識があったのではなかろうか。幼い彼女らはあるいは自在●のかかったいろりのそばで父や母から冬の夜物語りにふるさとの話を聞き胸をはずませたかもしれない。こうして成長した彼女らの心の深層にはたえずバクゼンとした郷愁があり、これが未知へのあこがれや知識欲を呼びおこして小樽の女の精神的風土を形づくっていったとも思える。ここで注目すべきことは小樽女性の政治への進出である。道議会に二人の女性議員を送り込んでいるが、このことは小樽女性の政治意識の反映といってもよかろう。政治への関心はいずれにしても現実に対する働きかけを意味するが、その底流には強い自己主張の願いがひめられている。かつての繫栄があるだけに、小樽人が比較的古いものを残存させ、いつくしむ心が強いといわれるなかにあって、こうした動きは彼女たちの将来のあり方を暗示するものとも考えられる。
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三代を経て郷土意識も高まってきた。彼女たちにとって小樽はもう仮の宿ではない。一時タケノコのように結成された各種の婦人団体や文化グループは新しい郷土意識の芽生えを物語るものなのだろう。
このモデル、杉香保子さんは洋舞ひと筋に二十数年を生きぬいてきた人。舞踏家のきびしさと、郷土にひたむきにささげる芸術愛は厳粛なまでの高い知性をまき散らしている。
そば会席 小笠原
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