蒸気ポンプとホース
2017年02月26日
によると
…明治四十五年 明治陛下御不例(ごふれい)であって同志会が起して多数有志は御脳(ごのう)御平癒(ごへいゆ)の祈願に住吉神社へ行きその帰りに編者と外(ほか)五、六名花園町にある店に水管車を取付けべくホースの陳列してあるのを動機としてそれこれ(あれこれ)協議をなし今日既に水道完成の暁はその地方地方に水管車を準備し一朝火災起らば消防組を待たず直ちに消火栓に取付けて防火に勤むるということは進歩した今日機宜(きぎ)の処置だろうというので、これには賛成者の多数あるのでこれ幸いなりとし数回の大火にこりごりした後であるから早速調べてみようというので時の消防部長、谷野由太郎氏に協議し編者と泉氏の名義で東京の専門店市原商店へ詳細問合せたしたところ実に親切な返事に接し、それを見ると三吋(インチ)半なれば太り過ぎはせぬか概してカップリングは三吋であるが小樽の蒸気ポンプも三吋ならば共通的に使用もでき水道も各地三吋のはずであるから三吋ならばいずれにも差支えなし、もしカップリングが三吋でホースが三吋半なる時は水勢に殺撃を与え消火には頗(すこぶ)る鈍くなりその代わりには長持ができる。双方とも三吋ならば消火には鋭く頗る効果あるなれど長持はせぬとの学術的専門家の説明であった。谷野氏も自己主張通りであるとて大いに喜ばれた。値段は一本二十二円五十銭なりという。これを多数の有志に発表しここにおいて火災予防組合を組織しようではないかということになり、これまでの消防組の取りたる夜警番を廃し更に組合新設の旨、飯田警察署長に申請したところ、大いに賛成で却って奨励されたので、早速にその設備委員として時の衛生組長である岩田氏、西田氏、佐々木氏、三島氏、佐藤氏、斉藤氏、その他梅野氏、泉氏、佐々木伊助氏、許勢氏、能島氏、池田氏及び編者の十三名とし万事協議の上ホース二十本、筒先四本を注文をしたるに程経て送り来り、代金は取敢(とりあ)えず泉氏に立替を乞うて支払したり。
ところでここに一問題の起ったのは小樽新聞が評していわく、手宮は水管車をこしらえたそうだがホースは三吋なりという、総て水管車は三吋半のホースでなくてはダメなものであるに素人考(しろうとかんが)えにて事をなすは大いなる誤りなりとて攻撃せられた。それから夜ひそかに三井物産前、今の集鱗会社付近の消火栓を開(あ)け谷野氏と泉氏編者と三名にて試験を行ったところ、水勢は無論のこと実に驚く程の良成績であったから翌日、泉氏は小樽新聞へ談判に行って説明してきてようやく虫がおさまったのである。以後何人が何と言うとも大丈夫というので安心した。それこれするなか陛下御他界となり大正元年となりて年末ともなり自然手遅れとなりしも、一方寄付金を募集しつつ種々の器具一切を買入れ、ホース置場として能島氏へ交渉して無料借地をなし、池田質屋の前へ建築士、以前の衛生事務所の如く専任書記に泉田達山氏を住居せしめ、大正二年六月をもって立派なる火災予防組合の組織ができたので、手宮をもって本組合の嚆矢(こうし)であることは大いに誇りとしたのである。…
p68~p70より
そば会席 小笠原
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