山中の元旦を涙々の小樽在勤侍(二)~⑦

2019年01月06日

 以下、〝難解″井上談ー。

 いやあマイった。マイった。寝ているとスキ間から雪が入ってきて顔にかかる。それに本もなくて退屈なので雪の中でもジョキングで体力だけはおとさぬようにした。

 晴れたときは山のてっぺんから小樽をはるかにながめて、あの賊兵どものおかげでコボすが、きいてくれる相手がいない。

 五日ごとに西谷君が米ミソ魚などをもつてきてくれ、時にはめずらしい菓子の差入れもあったり、賊軍の消息をきかしてくれるが、まもなく明治二年の元旦をむかえる。畜生ッ正月だというのにこんな奥山でと悲嘆にくれていると、人声がする。スワ賊兵がかぎつけたか、これで一巻の終りかと観念していたら、なんと西谷君とボクが役所で使っていた横山喜蔵君の二人がくるではないか。そして朝暗いうちに雪をかきわけて出発し、年賀のあいさつに訪づれたと、鶴と白鳥の生肉と酒をさし出すではないか。語っては涙。飲んではナミダ、涙々の元旦であった。殿サマこんな姿でと横山は泣きやまない。

 と、まあ井上トノサマはかきのこしているが、一ト月半後、官軍の参謀山田市之允はこっそりと長州商船に物資をつんで貿易と称して小樽港に入り、井上を銭函から漁船で脱出、乗船させた。のちに新政府から西谷にご褒美ゴッソリ。

 既に京洛のウルフ近藤、土方死し世はまさにご一新だが、永倉は大正六年(一九一五)まで生きて小樽で死んだ。

 青葉若葉の候、春香山ハイキングで井上の弥ツちゃん潜伏のあとをしのぶのも一興ではござらぬかオノオノ。

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見直せわが郷土史シリーズ⑦

小樽市史軟解

奥田二郎

(月刊ラブおたる39号~68号連載)より

~2016.4.3~

 

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