流芳後世 おたる 海陽亭 (十三)
2016年01月20日
『2階』
広間は、70畳の和室である。
この和室の床の間には、北海道では珍しいシュロ(棕櫚)の木が床柱として用いられている。
シュロの木は、やし科の常緑喬木で高さは6mに達し、円柱状で直立、枝はなく古い毛に被われている。
幹頂に葉を叢生、葉には長い葉柄が有りその基部は繊維に富み、俗に“シュロの毛”と呼ばれる。
材は書斎、亭などの柱とし、磨けば美麗な光沢を発するから器皿、鉢、盆または撞木とする。
毛苞は、“シュロ皮”といい、縄を作る。(広辞苑)
この“シュロ皮”からつくるシュロ縄は、北海道でも以前よく使われた。
水に強く、舟や湯舟の水漏れを防ぐため、板と板との隙間を埋めるのに用いられた。
又、園芸用として、添木や虎落(もがり)の結束などに用いられた。本州では、このほかに瓦を止めるのにも用いられていた。
このように、シュロ縄は、昔から北海道でも使われたが、“材”そのものを使用している例は珍しい。
シュロ材の特徴は、加工しない状態で殆ど円柱なこと、単子葉植物のため年輪が存在しないこと又、幹から枝分かれしないため節が無い事などである。
落とし掛けには手彫りの彫刻があり、色彩が施されている。
材の品種は判明しない。
天井は棹縁天井、板は2尺幅の杉の板目材、棹は松材の猿頬面。このほかに長押、柱、内法材など造作材にも松を用いている。
中広間の床柱の径早く233㎜で見事に磨き上げられた円柱である。
国産のシュロは、成長しても大体、200㎜位の径であることから中広間の床柱は、大きな方である。
幅、2間半の床の間を挟んで両側に1本づつ、2本のシュロの床柱が数奇な雰囲気をつくりだしている。
この材の表面も非常に堅く、傷らしいものは見当たらない。
大広間の黒檀の床柱と同様、一軒の価値がある。
床の間の左の床脇には、朧形式の明かり窓、更に左に書院がある。
床の間の右にも床脇があり、天袋、違い棚がある。
違い棚は、近代建築の正式な書院造の棚形式とされる西櫓形、使用されている材は欅。
床の間の地板は板畳であるが、床脇の地板は欅である。
落とし掛けには手彫りの彫刻があり、彩色が施されている。
材の品種は判明しない。
床の間、中広間共に、壁は土塗壁の上に砂壁である。
このほか長押、柱、内法材など造作材にも松を用いている。
中広間の回りには、広間三方から囲む形の回廊がある。
この回廊の外側も大広間の回廊と同様に、美濃判のガラス戸で囲われている。
板ガラスは1903年(明治36年)初めて我が国で製造されており、中広間回廊のガラスは国産の可能性が大きい。
回廊の幅は約4尺(1220㎜)床板は松材。
天井の形式は棹縁天井。板、棹共に松材を用いている。
回廊のガラス戸の内側には、松材の高欄を設けている。
夏の暑い夜には広間の障子を開け放ち、高欄を越えて吹き寄せる夜風に涼を求めたやもしれぬ。
大正時代の小樽を精力的に生きた“粹人”の姿が忍ばれるところである。
中広間の天井は猿頬天井である。板は杉の板目材、幅2尺、長さ6尺。棹は、松材を猿頬に面取りしたものを、2尺間に打っている。
打つ方向は床差しを避け、床の間と平行である。
70畳敷の部屋を一枚の猿頬天井でシンプルに仕上げ、床の間と調和させている。
このほかにも猿頬天井と調和しているものに〈ガス灯〉がある。
中広間には、5台のガス灯がある。
5台の内、1台はシャンデリア、残りの4台はペンダントタイプである。大正時代のガス灯の姿をそのまま現代に遺し往時を忍ばせている。
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