雪国の四季 (その4)
2015年04月14日
十月、秋の運動会。亦、母の作った菊を品評会へ出品する月。一年の丹精がみのる月で、私共も母の努力の成果を見に、公会堂へおしかける。厚物とか懸崖とか、子供には難しい言葉を覚えながら、金色や銀色の紙に「特賞」とか「一等賞」とか書かれた貼り出してあるのを探し廻る。「菊は花だけ見るのだではないの。葉っぱも茎も全体で見るの。葉が一枚かけても値打ちはなくなるの」母の言葉を思い出しながら見て廻った。そして、毎日々々の母の苦労を思い出して、賞の紙の下の方に母の名を見つけた時は、とび上って喜んだものだ。
十一月になると、雪がちらつき出す。十月半ばから月末にかけて、母達の仕事は頓に忙しくなる。御新香を漬けるためだ。たいな、にしんづけ、たくあん等。四斗樽に十本以上も漬ける。十月の始め頃から、毎日、大根の陰干しが始まる。縄につるした百本以上もの大根を、毎日出したり入れたり、女達の仕事はピークに達する。泥だらけの大根、白菜、たいな、キャベツ等、野菜類の洗浄、漬けこみ、十日以上もつづく大変な越冬の準備である。同時に、馬鈴薯、人参、かぼちゃ、玉葱、林檎、柿、みかんなどもリンゴ箱に入れて、台所の揚げ板の下の地下蔵に囲う。この頃には、石狩川で採れた鼻曲りの鮭が新巻になって送られてくる。。鰊のぬかづけ、麹づけ、身欠き鰊など、寒い長い冬に備えての食糧が確保される。そして暮から正月へ、春の訪れを待ちながら冬ごもりの季節となる。
こうした四季おりおりの行事や娯楽は、家族はもとより、使用人のすべてが加わることが常とされていた。
雪国の生活は、表には目立たないが、水の中でもがく水鳥のように、雪の中で、毎日々々、冬との闘いがエネルギッシュに、絶えることなくつづく。この期間を通して、雪国の人々の忍耐強い、苦難に負けず前進する人間性が形成されていくと、私は信じている。
そば会席 小笠原
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